「学校のヒーロー」
生きる営みの中では思い通りにならないことがあります。思い通りにならないことの方が多いのかもしれません。それは、大人の世界のことではなく、生まれたときから始まります。我が事で思い通りにならないのですから、人を思い通りにすることは難しいものです。ところが、幼児のころから思い通りに大人がしてやって満足させていると、子どもは友だちを思い通りにしようとします。ところが、友だちは思い通りにならないので、不満を持つようになります。周りの友だちはそんな人のところには集まりません。学校は、社会で自立貢献する人を育てるところです。ですから、自分の思いとともに人の思いを受け止め、チームで一つのことを成し遂げる教育活動を積み重ねる学習をします。
5年生は今年2つの宿泊学習ができませんでした。1つは何年も前から楽しみにしていた学習、もう1つは新しい取り組みで自分たちで作り上げていく学習でした。それでも誰一人不満を口にする者はいませんでした。その代わりに何かできることはないか教師と子どもで考え、5! Go Fun Dayという行事をしました。出発の朝、宿泊学習の中止について触れると、「校長先生、気にしないでください。わたしたちは今日の日を楽しみにしてきました。わたしたちの赤ずきんちゃんの劇を見ますか?」仲間と作り上げた劇のことや英語ゲームのことに胸躍らせていました。やり終えて、「よかったよ、よかったね。」と声を掛け合っていました。6年生も同じです。6年生になったらできる行事がいくつかあり、最後の宿泊学習もできませんでした。6年生には来年がありません。それでも不満は言いません。できないなら何ができるかを考え、自分たちの企画した行事や遠足で、どうやったら楽しくなるのか考えていました。5年生も6年生も思い通りにならず残念だったはずですが、不満にせず、何ができるかを考える方に心を向けたのは、親御さんのご指導があったことと思います。
5年生の国語教材に「大造じいさんとがん」(椋鳩十)という作品があります。大造じいさんは猟師で、がん(雁)を獲物にしようとするのですが、がんの頭領の残雪によってことごとく失敗します。そこに、力の上回るハヤブサが現れ、残雪はハヤブサとの戦いに破れ、大きな傷を負います。大造じいさんが残雪のもとへ駆けつけたとき、最期の力を振りしぼり、羽を広げ対峙します。大造じいさんは、残雪をただの鳥ではなく英雄だと心を打たれます。たとえ力があっても、さらに力のあるものが現れ、思い通りにならないことが起こるのですが、ヒーローはなお戦おうとします。ウルトラマンやアンパンマンもヒーローです。ヒーローは正義の力を出して人気があるのですが、それだけではありません。ヒーローにも思い通りにはならないところがあるから人気があるのです。それでも正義のために戦う姿に感動し、憧れるのです。
5年生や6年生は、ヒーローです。思い通りにならなくても、そのことをとらえ直し、目的に向けてアイデアを出し、実現させる学校のヒーローです。学校は、社会に出て自立貢献するヒーローに育てます。