会社のトップである社長のノートには日々何が書き込まれていくのか?そのノートから何が生まれていくのか?
パソコンやスマホの時代にあえて『書くこと』の意味を探る手帳プロデューサー・松本真季が、企業のトップに独占インタビュー。
広島市西区のオタフクホールディングス㈱代表取締役社長の佐々木茂喜さんを訪ね、「 書くこととは『思いを込めること』『思いをはせること』」と話す佐々木社長のノートと手書きへのこだわりを聞きました。
ライター/松本 真季
書き始めたのは30代。責任が重くなるにつれ、書き方が進化
オタフクソース㈱などを傘下に置くオタフクホールディングス㈱の代表取締役社長、佐々木茂喜さんは、ビジネス雑誌でもノートについて取り上げられたほど、ノート愛好家。
今回のインタビューでこれまでのノートを実際に拝見しましたが、その数はご持参いただいただけでもなんと20冊以上。ノートの中身を見せていただきながら、お話しを伺いました。
佐々木社長は30代のころから会議中はいつもノートに書いていたそうです。最初は細かい文字で罫線に沿ってきっちりと緻密に記入し、会議で誰がどんな発言をしたのか?それらがきちんと分かるようにまとめたものでした。
当時は、会議の内容を淡々と記していた議事録に過ぎないノートだったそうです。
ただ、ノートにはいくつかイメージ図のようなものもありました。このイメージ図こそ、佐々木社長が事業のことや経営についてスピーディに判断していく土台となる布石。
その後、ノートは佐々木社長の会社での役割と責任の中でどんどん進化していきます。スマートフォンでいうならば『アップデート』です。
ノートに書くときは4色ペンを使い分け
1998年に佐々木社長は東京支店長に就任。しばらくして、ノートは文字が大きく、罫線をはみ出した書き方になっていきます。
議事録というよりは、会議の中でイメージしたことや、思いついたことなどをどんどん書き込んでいく、いわば佐々木社長の頭の中を映し出したようなノートへと進化。
この辺りから現在のノートの相棒である4色ペンを採用し、それまで赤と黒の2色、もしくは青が入った3色だったノートに4色目の『緑』が登場してきます。
佐々木社長は「ノートには4色ボールペン(黒赤青緑)が必須だ」と言います。
使い分けの方法は、「黒と青を基本に、赤をポイントで使う。赤は注意の色であり結論でもある」とのこと。では、緑はどんな時に使うのか問うと、「緑は『To be continue』の色」と説明。
例えば、『まだこれは考える余地がある』とか『気になる、まだここは深堀できそうだ』といったとき、緑で書いたり囲んだりするのだそう。
30年間変わらないのは、日付の記入
佐々木社長のノートは今、完全にブレインストーミング式のノートで、会議中に考えたこと、イメージしたこと、思いついたことをどんどんじゃんじゃん書き出すそうです。「そのときその都度、考えたことや思いついたことはどんどんノートに書いていかないと忘れてしまうし、書き出すことで思考の深みが増していく」と話します。
アップデートを重ねて進化してきた佐々木社長のノート術ですが、今回実際のノートを20冊以上拝見した中で、30年間変わらないルールも発見しました。
それは『日付を記入する』ということ。
おそらく、佐々木社長にとっては当たり前で、もしかしたら無意識に続けてきたことかもしれません。しかし、まず『ノートに日付を書く』ことは、誰もができるけれど見失いがちな部分。日付という情報を記入することで振り返りができるのも利点です。
佐々木社長の約30年分のノートは、その時々の佐々木社長を映し出す鏡のような存在であり、写真よりも鮮明に当時を記録する、一緒に歩んできた大切なパートナーでした。
佐々木社長にとって「書くこと」とは
「佐々木社長にとって、ズバリ書くこととは何ですか?」とお聞きしました。
「 書くこととは『思いを込めること』『思いをはせること』」。
佐々木社長は毎年なんと約400枚の年賀状に、手書きのメッセージをお気に入りの万年筆で書き添えるのだそうです。
「会社同士の年賀状は、表書きはパソコン印刷しただけのものがほとんどです。しかし、そこに手書きで何か一言あると生きる。一言でいいんです」。
宛先の名前を見ながら、「今年は会えなかったな」「この人にはこのメッセージにしよう」などと一年を振り返りながら思いを込めます。「年賀状は作業ではなく行事として続けていますね」。手書きの最後には、自身で作った「喜」という字のはんこを押します。
相手に伝えたい思いを文字に乗せて
可愛いイラストと罫線が11本入っているはがきは、同社のオリジナル。左下には『お好ミュニケーション。そこには、お好み焼がある。』という文字が入っています。
「メールが流行りだしたころ、逆にアナログも大事にしようと思って作りました。工場見学やさまざまなお礼を書きます。手書きで書かないといけないようにわざと線をいれました」。
デジタルで打つ文字は綺麗で読みやすいかもしれません。しかし、同じ文脈文章でも読むのは人です。心に響く思いは、手書きとデジタルでは全く違います。
「書くこと」が生み出すお好ミュニケーション。佐々木社長の文字に乗せた思いは、受け取った相手に必ず伝わっているはずです。
佐々木 茂喜
オタフクホールディングス㈱(広島市西区商工センター)代表取締役社長。工場勤務、大阪支店長、東京支店長、営業本部長、生産本部長を経て、2005年にオタフクソースの社長に就任。09年、オタフクホールディングス代表取締役社長を兼任し、15年から現職に専任。1959年、広島県生まれ。
手帳プロデューサー
松本 真季(まつもと まみ)
父の難病の記録として書き始め、「書くこと」は感情の整理や内観になると気づく。その体験をいかして手帳プロデューサーとして活躍中。小3と高1の子ども、夫の4人家族。広島市中区在住。
※当サイトの掲載内容は、取材または公開したときの情報に基づいています。