授業を考える 〜子どもを信じる〜
子どもを学校に通わせる親御さんにとって心配なことはあるものです。親御さんの言うことを子どもが聞かなくなれば心配ですし、初めて学校生活を送る1年生も心配です。
先日の1年生の参観日、親御さんが話をしに来られました。入学したての頃、家での様子から学習についていけるのかと心配だったそうです。思い切って担任に打ち明けたところ、「だいじょうぶです。必ずできます。伸びます。」と力強く言われ、こんなにはっきりと自信のある先生だから私は先生を信じようと思ったと話されました。
担任のことばに力を得て、それ以来毎日子どもを見ていると、宿題は頑張るし、生き生きと登校しており、先生がこんなに我が子を信じてくれるのだから親が信じなくてどうすると考えを改めたそうです。これからも子どもと先生を信じていきますと胸を張っておられました。
ひとりの子どもの力ではいくら教師が教えても5の力はせいぜい6にしかなりません。教室にはたくさん子どもがいて、学習課題に対してこうだ、ああだといろいろ考え、仲間と伝え合い、時にはぶつかり合い、化学反応のように新しい考えが生まれることがあります。そこから新しい理解や技能や思考が身につくのが授業です。教師と仲間と追求していけば5の力は7にも8にもなります。そんな授業はおもしろく、多くの者と心が結ばれ学校が楽しくなります。
授業が終わるとすぐに遊びが始まり、仲間のことが好きになり運動欲求を満たして、また授業に向かうのが子どもです。だいじょうぶと答えた担任は、今の学力を知り、授業で手ごたえを感じ、伸びる子どもをイメージできているのです。そして、心身ともに健康で送り出してくれる親御さんだと信じているので、担任はだいじょうぶと言えるのです。
5年生が卒業する6年生とのお別れ集会を計画しています。全児童が集まってできる状況ではないのでどうすればよいかすぐに妙案は見つかりません。今、6年生と共に活動してきた喜びや下級生のために尽くしてくれたことへの感謝を、何をもって伝えるか考えています。答えは教師が出しません。これも授業ですから、答えは子どもが出します。子どもも先生に答えを出してもらおうとは思っていません。自身が考えてたどり着かなければ満足しません。教師が子どもを信じて、自ら考える子どもに育てていることをうれしく思います。
朝学校に向かうときの朝焼けはこの世界が美しいと感じる喜びの時です。すれ違う人にあいさつしても返ってくることばはありません。それでもいつかきっとと思っていると返す人がいました。あいさつを交わした後、「先ほどこの近くの小学生が元気のいいあいさつをしてくれてさわやかな朝になった。」と言われました。きっとうちの小学生だろう、朝早く登校してあいさつするのはあの子だろう、この子かもしれないと信じてやれることの喜びがある朝でした。授業で子どもを信じる学校の日常です。
《コラム「風のかたち」執筆者》
学校法人安田学園 安田小学校 前校長 新田哲之
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