摂食嚥下障害を知っていますか?
もぐもぐゴックンのお話
朝のニュースが始まるころ、西広泰務(仮名・90歳)氏は、食後の粉薬と水を用意しました。テレビを見ながら、西広氏は薬を飲んだ瞬間激しくむせます。
「おじいちゃん、どうしたの?」孫娘が駆け寄り、心配そうな顔でのぞき込んでいます。
「最近むせることが多くてのう、お茶とかでもむせるんじゃ」
このような話は歯科の問診中、ときどきお聞きします。実は「摂食・嚥下障害」の症状の一つです。
テレビを見ることで、これから口の中に薬が入るという認識、嚥下動作に入る準備がおろそかになります。これは摂食時の問題です。
粉薬と水という異なる性状のものを、舌と頬でひと塊とし、舌先から舌の付け根にかけて送り込みます。この能力が低下すると嚥下前の誤嚥(気管に食物が入ること)につながります。
送られたものはのど、咽頭に入りますが、上には鼻腔があり、のどちんこ周囲の柔らかい部分(軟口蓋)の機能が弱いと鼻に漏れてしまいます。
咽頭に水が入ると、のどぼとけ(喉頭)が上がり喉頭が閉鎖、食道の入り口が開き食道に水が入ります。これらは嚥下するうえでどれも必要な要素であり、いずれかに問題があると誤嚥のリスクは高まります。
しかも、咽頭内に水や食べ物が送り込まれてから食道に入るまでの時間は1秒以内です。高齢になると喉頭が下がり、咽頭収縮力の低下や咽頭期の誘発(ごっくん)も遅れます。
ただし、むせるとつらいのですが、むせというのは気管に入ったものを排出する、いわば防御反応です。
本当に怖いのは、誤嚥しているのにむせがない、不顕性誤嚥です。むせないから安心というわけではありません。誤嚥性肺炎にならないよう気を付けましょう。
山科歯科医院
院長 山科 敦
広島市佐伯区八幡2-26-27