留学先の地を踏んだわずが16日後に交通事故にあい、生死をさまよったMI•HO•KOさん(広島県在住)。希望に満ち溢れた25歳の夢は打ち砕かれ、残ったのはさまざまな後遺症でした。
右目の斜視、気管切開後の傷跡、高次脳機能障がい…。
「命があって良かった」という“きれいごと”では済まない22年間。助かった命を投げ捨てたくなるような日々を、夫や家族、友人の支えを受けながら歩んできました。
いま、心に芽生えている思いとはー。
高次脳機能障がいを抱えて
「事故では死者も出ました。後部座席にいた私は衝撃で車外に放り出され、頭を強く打ち意識不明で病院に運ばれました」(MI•HO•KOさん)。
手術と治療が施され、事故から40日後に意識を取り戻したMI•HO•KOさん。事故直後の様子や異国で受けた治療のことなどを著書「事故から始まるAnother Life やっとつかんだMy Life」に記しています。
MI•HO•KOさんが抱えた後遺症の一つが高次脳機能障がい。
高次脳機能障がいは、交通事故やスポーツ事故などで受けた脳損傷が要因で、「日常的なことをすぐに忘れる」「イライラしやすくなる」「集中力がなくなる」「感情コントロールが苦手になる」「先をみて計画を立てられない」などの症状があります。
外見からでは分かりづらい障がいのため周囲の理解が得られにくく、MI•HO•KOさんは現在も戸惑いと不安を抱えた生活を過ごしています。
家族の理解が必要。でも身近な人ほど衝突も
MI•HO•KOさんを特に悩ませるのが、すぐに忘れてしまう記憶障がい。
夫が障がいを理解してくれることに救われている反面、時に全て一人で解決しようとする夫の姿勢に「意思疎通ができない」とイライラすることも。
また、親族とのやり取りの中で、伝えた内容を覚えておらず「嘘をつかないで」と怒られてしまうこともありました。「私は嘘をついたつもりがなく、伝えたのか伝えていないのかも全然覚えていない。本当に落ち込みました」。
整体師として働く職場では施術終了時間をセットするタイマーを押し忘れ、同僚から「いつも時間がオーバーしている」と注意されたことも。「障がいのことを伝えても『(時間を守るよう)気をつければいいじゃん』と言われるだけ。それができない障がいなんです」。
この出来事をきっかけに、一緒に働く仲間たちに障がいのことを丁寧に説明したMI•HO•KOさん。現在では、施術終了5分前になったら声を掛けるなど、同僚たちが気遣ってくれるようになりました。
周りに協力してもらうためには自分自身が障がいを理解しておく必要があるということ。それも、MI•HO•KOさんにとって超えなければならないハードルだったそうです。
家族会、当事者会での新たな出会い
MI•HO•KOさんは8年ほど前から高次脳機能障がいの家族会や当事者会「一般社団法人めぐみ 高次脳機能障害サポートネットひろしま」に、月1回足を運んでいます。
障がいを持つ人の家族が集まって相談したり、当事者同士が情報交換したりする場所で、現在は広島市、東広島市、廿日市市、三原市で開かれて、MI•HO•KOさんは副代表を務めます。
最近、そこで新たな出会いがあったそう。
事故の影響で高次脳機能障がいを抱えた26歳の男性が、MI•HO•KOさんが整体師であることに興味を示し、「やり方を教えてほしい」と声を掛けてきました。
その次の当事者会で男性に会ったとき、「教わった方法で家族や近所の人にマッサージしてあげたら喜んでくれた」と、うれしそうに報告してくれたそうです。
MI•HO•KOさんは「障がいを抱えたことで仕事もできず、家族のお世話がないと何もできない。そんな彼が、マッサージを通して周りから『気持ちいい』と言ってもらえることで、自信がついてきているようでした」と目を細めます。
彼が自信を取り戻す姿は、MI•HO•KOさんにとっても心の変化をもたらしました。
「彼の障がいを治すことはできないけど、心を救うことはできたんじゃないかなって。事故でそれまでの全てを無くしてしまった私ですが、人の役に立てた気がして『生きててよかった』と思えました」。
広島県内だけでなく、他県の当事者会にも積極的に参加。障がいを抱える人の社会での問題を共有したり相談に乗ったりして、相互理解を深めています。
また、高次脳機能障がいを抱えた自身の生活をブログで紹介。失敗談や工夫していることなどリアルな日常をつづり、「少しでも障がいの周知につなげたい」と話します。
一般社団法人めぐみ 高次脳機能障害サポートネットひろしま
広島県内4ヶ所(広島市、東広島市、廿日市市、三原市)で、家族同士の交流や学習の場として家族相談会を開催しています。座談会形式の気軽な集まりで、障がいのとらえ方や家庭生活における対応の仕方や工夫を学ぶ場です。当事者、家族のほか、高次脳機能障がいと関わる医療・介護従事者も参加できます。
詳細はこちら↓
https://koujinou-net.com/meeting
本を出版。そして…
2022年9月に出版した著書「事故から始まるAnother Life やっとつかんだMy Life」は、事故に巻き込まれた25歳からの約20年間をまとめたもの。後遺症がある現実を受け入れられなくて歩道橋から飛び降りようとしたこと、それでも人生を立て直そうともがいたMI•HO•KOさんの半生を書いたノンフィクションです。
「高次脳機能障がいを抱えた生活もつづっているので、当事者と関わる家族や医療関係者の参考になれば」と、本の存在を多くの人に知ってもらうため電車内や書店に自費広告を打ち出す活動も。9月には愛知県名古屋市の三省堂書店で特集販売されます。
MI•HO•KOさんの夢は、車で各地を周り、そこで出会った人の体と心をほぐすこと。「1対1でマッサージして、終わったあとはお茶を飲んでゆっくり話を聞いて。私自身も話を聞いてもらうことで救われてきた。だから私も誰かの体と心をラクにしてあげられたら」。
事故で夢への挑戦を閉ざすしかなかったMI•HO•KOさんが、新たに抱いた夢。それは、障がいがあっても誰かの役に立ち、自分も周りも幸せになろうとするものです。
「今の状態から少しでも前に進みたい」。MI•HO•KOさんは小さな一歩がいつか大きな一歩になると信じて、夢に向かって踏み出します。
MI•HO•KO
1976年、広島県生まれ。25歳のとき、留学先のカナダで事故に遭い40日間意識不明に。後遺症で高次脳機能障害が残るも、退院後はリハビリをしながら通訳ボランティアとして社会復帰。その後、留学前からの恋人と結婚し、移り住んだ神奈川県で作業療法士を目指すも挫折。整体師の資格を取得し、妊娠・出産後、整体師としてリラクゼーションサロンに勤務。広島県に戻り、現在に至る。2022年9月、初の著書「事故から始まるAnother Life やっとつかんだMy Life」を出版。
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事故から始まるAnother Life やっとつかんだMy Life
2022年9月発行
著者:MI•HO•KO
発行者:瓜谷 綱延
発行所:㈱文芸社(東京都)
判型:四六判(128mm×188mm)
ページ数:228ページ
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