vol.29 3歳の娘、初めての手術。
◇2017年 10月
難治性てんかんの発作を緩和するためVNS(迷走神経刺激術)という手術を受けることになった娘。
手術の日、全身麻酔前は絶食絶飲のため、朝5時頃に起こしていつもの薬を飲ませた。処置室で点滴の針を入れてもらって、準備完了。呼ばれるのを待つ間、私の緊張をよそに、娘はいつもと変わらずへらへらと呑気に病室でDVDなど見て過ごしていた。
時間になると、看護師さんが迎えに来てくれて点滴台を押しながら抱っこで手術室へ向かった。
自動ドアを入ると、私は付添人用のマスクと帽子、黄色い不織布のかっぽう着のような服を着て、黄色い給食のおばさんのような格好になり、さらに奥の自動ドアの中へ。
広い廊下に金属でできた重そうなドアがたくさん並んでいる。人がいない廊下はしんと静かで、各部屋の前のモニターに映った文字だけが点滅して、病棟よりさらに無機質で冷たい空間に感じられた。
廊下に並んだドアの一つに案内され広い手術室に入るとすぐに、名前を確認されて手術台に寝かせるよう言われる。看護師さんたちが手際よく準備を進めていく中、私は邪魔にならないように少し下がって見守った。
「では麻酔をかけていきますね。これを付けたらすぐに眠ってしまいますからね」
と、看護師さんが娘の顔にチューブが繋がったマスクを付ける。
私は娘のお腹をトントンしながら、できるだけの笑顔で、
「(娘の名前)ちゃん、大丈夫だからね!がんばってね!」
と、声をかける。言い終わらないうちに、娘はもう目を閉じていた…。
手術は半日ほどの予定だった。
待つ間、私は気分を変えようと病院内の某有名カフェに行ってみた。普段は、じっとしない娘を連れていると絶対に行けないので、一人の間ゆっくりしようと決めていたのだ。でも、実際にはコーヒーを飲んでいても全然落ち着かなくて、早々に店を出た。
そわそわしながら病室で待っていたが、予定時間を過ぎても一向に呼ばれない。
何か連絡が入っていないか、ナースステーションの様子を伺いに行っても特段変わった様子はなく、看護師さん同士が笑いあってしゃべっている。
病室に戻って待っていると、予定時間を1時間程過ぎたころ、看護師さんが呼びに来てくれた。
「終わったようなのでお迎えに行ってみましょうか。」
ものすごく長い1時間だった。
看護師さんと一緒に、娘のところへ向かう。最初と同じように、黄色い給食のおばさんスタイルで手術室へ。
ー(大丈夫かな。無事に終わったかな。麻酔からちゃんと目が覚めるかな。)
ドキドキしながら手術室に入ると…娘は既に目を覚まして手術台の上に座っていた。
手術後は目が覚めるのをそわそわと側で待つものだとばかり思っていた私は多少驚きつつ、娘に声をかける。
「(娘)ちゃん、大丈夫?がんばったね!痛くない?お部屋に帰ろうっか。」
ぼーっとして反応がない娘。それでも、子ども用ストレッチャーに乗せようとすると自力で降りようとするほど元気そうだった!
手術後の診察で、手術の執刀医である脳外科医師から、手術が予定通り成功したと改めて説明を受けた。
こうして、3歳の小さな娘の初めての手術は、無事に成功したのだった。長い長い1日だった。
※このコラムは、西広島タイムス紙面に2019年から連載した内容を加筆・修正して掲載しています。
【 コラム作者 】
広島市在住の3児の母。
末娘が2歳のとき「結節性硬化症」という難病と診断される。
子どもの病気や障害と向き合いながら、子育てや仕事に毎日奮闘中。