「バスの中の上級生」
朝読書の時間に席についていない子どもがいました。どうしたのか尋ねると、
「朝の授業準備をしていました」
「準備が間に合わなかったのは、朝寝坊をして登校が遅くなったからです」
と答えました。相手に分かるように自分の事情を伝えることができたことに感心しました。2年生ですから順序立てて話すことが学習のめあてとしてあります。この受け答えは立派なものです。「ていねいに的確に」話すことができれば、朝読書をしていなかったことについて私から何も言うことはありません。ていねいに的確に話せるのですから、自分の考えがまとめられているのです。ていねいに順序よく話せましたと言って終わりにしました。
ていねいに聞くこと、ていねいなことばで話すことを子どもたちに意識させて指導しています。「ていねい」を指導するのは、人から好感を持ってもらうためではありません。ていねいなことば遣いは人を敬う心につながります。「ていねい」を意識させるには、毎日のていねいなことばを使った話のやり取りが大事で、積み重ねていくと少しずつ意識するようになります。昼ごはんのお茶を取りに来る給湯室の前に、「失礼します。お茶を取りに来ました」と掲示されています。子どもはそれを見て、ていねいなことばを身につけます。しかし、何も言わずに部屋に入ることもあります。どうしたのですかと問えば、忘れていたことに気づいて、「失礼します。お茶を取りに来ました」と言います。こちらは、よい勉強ができましたと言ってやれるので、子どもは気持ちよくお茶を持って教室に戻っていきます。
靴箱に靴をそろえることを意識させています。できていなければやり直しをします。できるようになるまでやり直しをします。「ていねいではなかった」ことに気づく学習がやり直しです。靴をそろえるのはだんだんと当たり前のことになっています。しかし、ときには慌ててしまうので靴が乱れます。そんなとき、「ていねいではなかった」と気づかせてやります。靴をそろえ直して心を落ち着かせます。
バスの乗客の方から聞いた話です。子どもがバスから降りようと席から立ち上がったときに、ランドセルにつけている定期入れが引っ掛かりました。それを知った乗客の方が引っ掛かった定期入れをはずしてやると、そばにいた上級生が、「ありがとうございました」とていねいにお辞儀をしました。引っ掛けてしまった子どもは気づかないままでしたので、きっとこの2人は兄弟で、下の子の代わりにお礼を言ったのだろう、仲の良い兄弟だと思われたそうです。ところがバスを降りた2人は、違う方向に歩き出しました。どうやら兄弟ではなかったようです。その上級生のていねいなことば遣いとお辞儀は立派なものだったと、感心しておられました。バスの中の上級生が、「ていねい」のめざす子ども像です。